2020年5月に「年金制度改正法」が成立しました。
この改正にともない、社会保険の適用範囲が拡大することが決定しています。
新しく社会保険の加入者となる従業員を雇用している事業者は、この改正に向けて対応しなければなりません。
今回の改正では、主に中小企業が影響を受けることになります。
この記事では、社会保険制度の概要や今回の法改正の内容、事業者側に求められる対応について解説します。
企業で人事や総務などを担当している方は、ぜひ参考資料としてお読みください。
社会保険とは
社会保険とは、生活のなかで遭遇するリスクに対して備えるための社会保障制度です。
具体的には、以下の5つの保険の総称を意味します。
- 健康保険
- 厚生年金保険(年金保険)
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
社会生活を営むなかで、どうしても避けられないリスクが存在します。
病気や怪我などが代表例です。
社会保険は、こうしたリスクが生じた際に加入者の生活を保障するために整備されています。
社会保険は、「相互扶助」の考え方をもとにして成り立っています。
相互扶助とは、「お互いに助け合う」という考え方のこと。
社会保険はこの考え方に基づき、お互いが資金を出し合い、助け合うように設計されています。
なお、社会保険は原則として強制加入です。
万が一、被保険者に事故が生じた場合は、保険料および国庫負担金を財源として保険金の給付が行われます。
厚生労働省が呼称する「社会保険」とは、上記のうち健康保険と厚生年金保険を指します。
これは、企業で働く人に対して加入が義務付けられています。
本記事では、厚生労働省の定義による社会保険についてお話しします。
法改正による社会保険適用範囲の拡大
2022年10月からは、社会保険の適用範囲が拡大されます。
以下では、この改正内容についてお話しします。
改正前の社会保険加入要件
まずは、従来の社会保険加入要件をおさらいしておきましょう。
これまでの社会保険には、以下のような加入要件が定められていました。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 月間の賃金が8.8万円以上
- 学生ではない
これらの要件に当てはまる従業員は、加入対象となります。
従業員数が500人超である事業者は、この要件に該当する労働者を社会保険に加入させなければなりません。
「従業員」の定義は以下のとおりです。
- 正規従業員
- 週の所定労働時間数、月の所定労働日数が正規従業員の4分の3以上であるパート・アルバイト
「雇用期間が1年以上見込まれる」という項目からもわかるとおり、短期アルバイト・パートは対象外となっていました。
改正後の社会保険適用範囲
今回に法改正により、社会保険適用範囲の要件緩和が行われることになりました。
以下のような変更が加えられています。
変更前:雇用期間が1年以上見込まれる
変更後:雇用期間が2カ月超見込まれる
この変更により、短期アルバイト、日雇い労働者など短期間労働者も社会保険の加入対象となりました。
社会保険適用範囲拡大の背景
今回の社会保険適用範囲拡大の背景にある最大の理由は、保険料徴収額の減少です。
近年、日本は労働人口の減少に直面しています。
2019年の統計では、ついに出生率が90万人を下回りました。
また、未婚化、晩婚化、出産年齢の高齢化などによる、少子高齢化もクローズアップされています。
このままいくと、15~64歳の生産年齢人口は、2040年には6,000万人を下回る見込みです。
こうした状況により、社会保険の保険料を徴収する目処が立たなくなっています。
社会保険制度を維持するには社会保険適用範囲の拡大が必要になったため、今回の適用範囲拡大が実施されました。
社会保険適用拡大のスケジュール
2022年10月からは、事業者の規模に応じて段階的に適用されていく予定です。
まず、従業員数が常時100人超の事業者が対象になります。
2024年10月からは、従業員数が常時50人超の事業者が対象になります。
2016年10月~ | 2022年10月~ | 2024年10月~ | |
---|---|---|---|
事業者 の規模 |
常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
労働時間 | 1週の所定労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金 | 月88,000円以上 | 変更なし | 変更なし |
雇用期間 | 継続して1年以上雇用されることが 見込まれる |
継続して2カ月上雇用されることが 見込まれる |
継続して2カ月以上雇用されることが 見込まれる |
適用除外 | 学生ではない | 変更なし | 変更なし |
社会保険における従業員数の定義
上記のとおり、2022年10月から常時100人超の従業員を使用している事業者は、社会保険の適用範囲を拡大する必要があります。
自社が該当するのか把握するため、「従業員数」の定義について明確にしておきましょう。
まず、今回の改正内容で事業者の規模を判断する基準となる労働者数は、「その事業者に所属しているすべての労働者」と同義ではありません。
正社員、およびフルタイムの4分の3以上の労働時間で働く労働者のみをカウントします。
法人の場合は、同一法人番号の事業者の従業員数をすべて合算してカウントします。
個人事業主の場合は、社会保険の適用事業所単位でのカウントとなります。
採用と離職が激しい事業者の場合、判断が難しいことがあるでしょう。
従業員数については、「直近12カ月のうち、6カ月で基準を上回っているかどうか」で判断します。
また、一度基準が適用されると、従業員数が基準を下回ったとしても、原則として適用された基準が変わることはありません。
社会保険加入者となるメリット・デメリット
今回の法改正によって、これまで社会保険の対象外だった多数の短期労働者が社会保険加入者となることが予想されます。
国民年金保険や国民健康保険から社会保険へと切り替わることで、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
社会保険の加入者となるため、保険制度によるサポートが受けられるようになります。
厚生年金保険の増額は代表的なメリットです。
社会保険の加入者になると、基礎年金に老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金などが上乗せされます。
そのため、老後に受け取る年金を増やすことができます。
傷病手当金や出産手当金が付与される点もメリットです。
病気や怪我、出産などで会社を休んだ場合、一定の条件に当てはまると手当が支給されます。
国民健康保険で受けられるサポートは医療費の自己負担額の軽減のみであり、手当などはありません。
また、社会保険の保険料は加入者のほか会社も負担するため、加入者によっては負担額が安くなることがあります。
デメリット
社会保険加入のデメリットとして挙げられるのは、給料の手取り額が減る点です。
社会保険料は、給料から天引きとなります。
特に、それまで扶養に入っており保険料の支払いがなかった人にとっては、負担が増えてしまうことになります。
負担を増額させたくない場合は、勤務時間を調整するなど、事業者との相談が必要です。
社会保険適用範囲拡大に向けて企業がとるべき対応
従業員100人超の事業者は、2022年10月の社会保険適用範囲拡大に向けて準備が必要です。
また、従業員50人超の事業者も2024年10月の改正を見越しておくことが求められます。
以下では、社会保険適用範囲拡大に向けて企業がとるべき代表的な対応をご紹介します。
社会保険加入対象者の把握
まずは、今回の改正で社会保険の加入対象者となる自社の従業員を把握しましょう。
常勤の労働時間、賃金、雇用期間といった条件から、社会保険加入対象者を洗い出してください。
対象者への周知
加入対象となる従業員に対して、周知を行う必要があります。
対象者を社会保険に加入させることは事業者にとっては義務です。
しかし、従業員が社会保険に関して明確に理解していないケースがあります。
そのため、口頭などで簡単に伝えるのではなく、しっかりと時間を設けて意思を確認することが大切です。
特に、配偶者などに扶養されている短期労働者にとっては、手取りが減る関係上、社会保険の加入は必ずしも好ましいことではありません。
対象者が社会保険の加入をデメリットだと感じる場合は、労働時間の調整など事業者側でできることを検討することが大切です。
家庭の状況、将来の設計など、従業員の状況を可能な限りヒアリングしたうえで、事業者側としての対応を決めましょう。
従業員への周知を行うためには、まず事業者側が社会保険についての理解を深めておく必要があります。
スムーズに説明できるよう、担当者は社会保険に関する知識を深めておきましょう。
Q&Aなど、従業員にとってわかりやすい資料などを用意しておくのもおすすめです。
被保険者資格取得届の提出
対象者を社会保険に加入させるためには、書類の提出などの準備が必要です。
2022年10月の改正の対象になる企業には、8月までに書類が届くことになっています。
書類には申請の方法が記載されているため、案内に従って手続きを行ってください。
申請には、「被保険者資格取得届」という書類を提出する必要があります。
書類は、オンライン上で作成・提出可能です。
提出期限は2022年10月5日のため、忘れずに提出してください。
日本年金機構のホームページには、電子申請に関して相談できるチャットの窓口が設けられています。
電子申請に関してわからない点があれば、積極的に利用してください。
まとめ
社会保険適用範囲の拡大について解説しました。
業種によっては、短期雇用のアルバイト・パート従業員を使用しているケースも少なくないでしょう。
社会保険の加入は従業員の生活にかかわる重要な変化であるため、情報周知を徹底するようにしましょう。
また、申請のための書類提出には期限があるため、間に合うように準備を進めておいてください。
手続きに関してわからないことがあれば、日本年金機構の相談窓口を利用しましょう。
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資格
一般建設業 東京都知事許可(電気通信工事業):(般-4)第148417号
古物商 東京都公安委員会許可(事務機器商):第304361804342号
労働者派遣事業 厚生労働省許可:派13-316331
小売電気事業者 経済産業省登録:A0689
電気通信事業者 総務省届出:A-29-16266
媒介等業務受託者 総務省届出:C1905391
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